シンジ |
「トウジもケンスケも、みんな家を失って他の所へ行ってしまった。友達は…友達と呼べる人は居なくなってしまった…誰も…。綾波には逢えない。その勇気が無い。どんな顔をすればいいのか分からない…。アスカ…ミサトさん…母さん…僕はどうしたら、どうすればいい…」 |
カヲル |
「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフフーン…。歌はいいねぇ」 |
シンジ |
「え?」 |
カヲル |
「歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう感じないか? 碇シンジ君」 |
シンジ |
「僕の名を?」 |
カヲル |
「知らない者はないさ。失礼だが君は自分の立場をもう少しは知ったほうがいいと思うよ」 |
シンジ |
「そうかな? あの、君は?」 |
カヲル |
「僕はカヲル、渚カヲル。君と同じ仕組まれた子供、フィフスチルドレンさ」 |
シンジ |
「フィフスチルドレン!! 君が…あの…渚君」 |
カヲル |
「カヲルでいいよ、碇君」 |
シンジ |
「僕も、あの、シンジでいいよ」 |
カヲル |
「ふふふっ」 |
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カヲル |
「君がファーストチルドレンだね。綾波レイ、君は僕と同じだね」 |
レイ |
「あなた誰」 |
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カヲル |
「やあ、僕を待っててくれたのかい」 |
シンジ |
「いや、別にあの、そんなつもりじゃ」 |
カヲル |
「今日は?」 |
シンジ |
「あの、定時試験も終わったし、後はシャワーを浴びて帰るだけだけど…。でもホントはあまり帰りたくないんだ、この頃…」 |
カヲル |
「帰る家、ホームがあるという事実は幸せに繋がる。よい事だよ」 |
シンジ |
「そうかな?」 |
カヲル |
「僕は君ともっと話がしたいな。一緒に行っていいかい?」 |
シンジ |
「え?」 |
カヲル |
「シャワーだよ。これからなんだろ?」 |
シンジ |
「う、うん」 |
カヲル |
「だめなのかい?」 |
シンジ |
「あ、いや別にそういうわけじゃないけど…」 |
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カヲル |
「一時的接触を極端に避けるね、君は。怖いのかい? ヒトと触れ合うのが。他人を知らなければ裏切られる事も、互いに傷つく事も無い。でも、寂しさを忘れる事もないよ。人間は寂しさを永久になくす事はできない。ヒトは一人だからね。ただ忘れる事が出来るから、ヒトは生きていけるのさ。」 |
シンジ |
「あっ!!」 |
ガタン |
シンジ |
「時間だ…」 |
カヲル |
「もう、終わりなのかい?」 |
シンジ |
「うん、もう寝なきゃ」 |
カヲル |
「君と?」 |
シンジ |
「えっ、いやっ、カヲル君には、部屋が用意されてると思うよ、別の」 |
カヲル |
「そう、常に人間は心に痛みを感じている。心が痛がりだから生きるのも辛いと感じる。ガラスのように繊細だね? 特に君の心は」 |
シンジ |
「僕が?」 |
カヲル |
「好意に値するよ」 |
シンジ |
「好意?」 |
カヲル |
「好きって事さ」 |
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カヲル |
「やはり、僕が下で寝るよ」 |
シンジ |
「いいよ、僕が無理言って泊めてもらってるんだ。ここでいいよ」 |
カヲル |
「君は何を話したいんだい?」 |
シンジ |
「え?」 |
カヲル |
「僕に聞いて欲しい事があるんだろう?」 |
シンジ |
「いろいろあったんだ、ここに来て…。来る前は、先生のところに居たんだ。穏やかでなんにも無い日々だった、ただそこに居るだけの…。でもそれでもよかったんだ、僕には何もする事が無かったから…」 |
カヲル |
「人間が嫌いなのかい?」 |
シンジ |
「別にどうでもよかったんだと思う。ただ、父さんは嫌いだった!!」 |
シンジ |
(どうしてカヲル君にこんなこと話すんだろう…) |
カヲル |
「僕は、君に逢う為に生まれてきたのかもしれない」 |
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カヲル |
「さあ行くよ。おいで、アダムの分身そしてリリンのしもべ」 |
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シンジ |
「嘘だ、嘘だ、嘘だ!! カヲル君が、彼が使徒だったなんて、そんなの嘘だっ!!」 |
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カヲル |
「遅いな、シンジ君」 |
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シンジ |
「裏切ったな!! 僕の気持ちを裏切ったな!! 父さんと同じに僕を裏切ったんだっ!!」 |
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シンジ |
「いた!!」 |
カヲル |
「待っていたよシンジ君」 |
シンジ |
「カヲル君!!」 |
シンジ |
「アスカ、ゴメンよ」 |
カヲル |
「EVAシリーズ、アダムより生まれし人間にとって忌むべき存在。それを利用してまで生き延びようとするリリン、僕には分からないよ」 |
シンジ |
「カヲル君、やめてよ!! どうしてだよ!!」 |
カヲル |
「EVAは僕と同じ体で出来ている。僕もアダムより生まれし者だからね。魂さえ無ければ、同化できるさ。この弐号機の魂は、いま自ら閉じこもっているからね」 |
カキーン |
シンジ |
「ATフィールド!?」 |
カヲル |
「そう、君達リリンはそう呼んでるね。 何人にも侵されざる聖なる領域、心の光。リリンも分かっているのだろう? ATフィールドは誰もが持っている心の壁だという事を」 |
シンジ |
「そんなの分からないよカヲル君!!」 |
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カヲル |
(ヒトの運命か…ヒトの希望は悲しみに綴られているのに…) |
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シンジ |
「カヲル君!!」 |
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シンジ |
「待って!!」 |
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シンジ |
「うわぁぁぁーっ!!」 |
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カヲル |
「アダム。我等の母たる存在。アダムより生まれし者はアダムに帰らねばならないのか?ヒトを滅ぼしてまで…。違う、これは・・・リリス!! そうか、そういう事かリリン」 |
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カヲル |
「ありがとう、シンジ君。弐号機は君に止めておいて欲しかったんだ。そうしなければ、彼女と生き続けてかもしれないからね」 |
シンジ |
「カヲル君…どうして…」 |
カヲル |
「僕が生き続ける事が、僕の運命だからだよ。結果、ヒトが滅びてもね。だが、このまま死ぬ事も出来る。生と死は等価値なんだ、僕にとってはね。自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだ」 |
シンジ |
「何を…カヲル君、君が何を言っているのか分かんないよ…カヲル君…」 |
カヲル |
「遺言だよ。さあ、僕を消してくれ。そうしなければ、君らが消える事になる。滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体はひとつしか選ばれないんだ。そして、君は死すべき存在ではない。君達には未来が必要だ。ありがとう。君に逢えて嬉しかったよ」 |
バシャーン |