アタシはアスカよ!
第壱話
帰り道


「どうしたんだい?こんなところへ」

夕暮れの中、湖のほとりの樹に寄りかかりながら、歌を口ずさんでいた少年は、
美しく金色に輝く長い髪と、晴れた空の様に青くすっきりと澄んだ瞳を持った
少女が近寄って来たのに気づくと、歌を止めて、その少女に話かけた。

透けるように淡い、わずかに青みかがった銀髪と、深い赤い全てを見通すよう
な瞳を持った少年に話かけられた少女は、頬をわずかに赤く染めながら、慌て
たように、答える。

「た、たまたま、通りかかっただけよ。それで、歌がちょっと、聞こえたし、
ちょっと・・・・べ、べつに、アンタに会いに来たわけじゃないわよ」

少年は、優しい包み込むような笑顔を浮かべながて、少女を見つめながら、少
女の言い訳を聞いた後、ゆっくりと、それに答える。

「ふふっ、わかってるさ」
「な、なによ、その笑いは。ア、アタシは、別に・・・・」

「別に、僕のことなんか、なんとも思ってないんだろ?」
「そ、そうよ。アタシは、一人で生きてくんだからね。別に、アンタなんかに、
かまって欲しいなんておもってやしないんだからね!」

「だから、僕が、一人で喜んでるのさ。言ったろ?僕はアスカに好意を持って
るからね」
「ア、アンタばかぁ?よく、そんなこと、恥ずかし気もなくいえるわね!」

「人が人を好きになるのは、恥ずかしいことなのかい?僕は、そうは思わない
よ。だから、何度でも言えるさ。僕は、アスカが好きだ」
「だから、アタシは、別に!」

「ふふっ、いいんだよ。僕の片想いなんだから」
「そうよ!完全に、アンタの片想いなんだからね!」

少女の突き放すような言葉に、少年は動揺もみせず、優しく少女を見つめなが
ら、静かに答える。

「わかってるよ。だから、待ってるだけなんだ」
「待ってたって、ムダよっ」

「そんなことはわかってるさ。でも、待っていたいからね」
「勝手に、待ってればいいじゃないの。アタシ、帰るからね」

「そうかい・・・そうだね。じゃ、おやすみ、アスカ」

もう、刻は夕暮れをとっくに、過ぎて、あたりも暗くなってきている。それを、
冷静に判断した少年は、やはり、優しい瞳で、包み込むように微笑みながら少
女に別れの挨拶をする。

少女は、帰ると言ったあとも、頬を微かに染めながら、しばらく、少年の優し
い瞳を見つめ続けた。そして、思い切ったように、口を開く。

「アンタは、帰らないの?」
「僕かい?そうだね。僕もそろそろ部屋に戻るよ」

「そ、それじゃあ、一緒に帰ればいいじゃない。どうせ、方向は一緒なんだし」
「アスカは、構わないのかい?僕が、アスカの隣を歩いて」

「ば、ばかねぇ。方向が一緒なんだから、しょうがないじゃない。そんな風に、
意識することじゃないわよ」
「そうだね。ありがと、アスカ」

「じゃ、帰るわよ。大体ねぇ、この暗い夜道を、若い女の子、ひとりで、帰そ
うなんて、非常識よ。送っていこうか?ぐらい、言うもんだわ」
「ふふっ・・・・そうだね。それじゃあ、アスカ。僕にうちまで、送らせてく
れるかな?」

「べ、別に、アタシは、夜道なんて平気だけど・・・・そうね、アンタが、そ
ういうなら、送らせてあげてもいいわ。いっとくけど、だからって・・・・」
「わかってるよ。僕の片想いだって・・・何度も、言わせない欲しいな」

「分かってればいいのよ。分かってれば」

そういうと、少女は、くるっと、少年に背をむけ、歩きだした。少年は、クス
ッと小さく笑った後、少女を追いかけ、となりを歩く。

少女がいう程は、まだ、遅い時間ではない。しかし、戦いの爪跡の大きく残る
第三新東京市の街は、閑散とし、人も車も動くものは、見渡すところ、少年と
少女のふたりだけであった。

ふたりは、静まり返った薄暗い通りを、つかず離れず、無言であるく。少女は、
時々、思い出したように、少年の顔をチラっと、見ては、さっと、再び、まっ
すぐ前を向いて、何もなかったかのように、歩き続ける。少年は、そんな少女
の様子に気づかぬふりをして、まっすぐ前をむいて、歩き続ける。不意に、少
女が口を開く。

「ア、アンタさぁ。ちゃんと、食事してる?最近」
「最近は、ちゃんと、自炊するようになったよ。アスカにいわれたからね」

「な、なによ。そのいい方」
「別に、たいした意味はないよ。でも、僕のことを気にかけてくれるんだね」

「べ、べつに、聞いてみただけじゃない」
「そうかい。でも、嬉しいな。アスカから、話かけてくれるなんて」

「ば、ばか、何いってんのよ。黙って歩いてても退屈なだけじゃない」
「そうだね」

しかし、二人は、再び、黙りこんで、歩き続ける。しばらくすると、やはり、
少女が少年に話かける。

「アンタ、ずっと、ひとりで、寂しいとか、思わないの?」
「アスカは、寂しいのかい?」

「ア、アタシは、寂しくなんかないわよ。それに、もう、Nerv もなくなったし、
ミサトと一緒に住む理由なんかないし・・・・アタシは、アンタの事を聞いて
んのよ」
「僕は・・・・そうだね。僕も、アスカと同じだよ。寂しくはないな。それに、
誰かと一緒に住む理由はないしね」

「・・・・そう」
「それに、いつも、アスカのことを考えているからね。僕のこころの中のアス
カが、いつも僕に話かけてくれるよ」

「アンタ、ホント、恥ずかしげもなく、よく、そんなこと言えるわねぇ。あっ
きれるわ」
「しかたがないさ。本当のことだからね」

「本当なら、なおさら、そんなこと、言わないわよ、普通」
「そうだね。普通ならね・・・・普通のヒトなら・・・・」

それまで、常に冷静に優しい微笑みを浮かべていた少年の顔が一瞬、悲しげに
曇る。少女は、少年の変化に、慌てて応える。

「ア、アンタばかぁ?そんなとこで、暗くなんないでよ。悪かったわよ。ほら、
アンタは、ヒトとして、暮らしてくんでしょ」
「わかってるさ。暗くなんかならないよ。アスカの言うとおり、僕は、ヒトに
なるんだからね」

「そうよ。しっかりしなさい。ヒトの世界はねぇ、厳しいのよ。辛いことだら
けなんだから」
「そうだろうね」

少年は、少女の青く澄んだ瞳を見つめながら答える。イキイキと生命力に溢れ
た瞳・・・辛いこと、悲しいことを乗り越えて、生きていくんだという、決意
に満ちた瞳。常に、内に、その悲しみを湛えながらも、懸命に生きようとして
いる少女の姿。少年は、少女のようになりたいと思う。

少年の傷は永久に癒されない。例え、外見はヒトと同じであろうとも、少年は
ヒトではない。第17使徒・・・最後のシ者・・・それが少年の正体。そして、
少年は、その役目を終え、既に、その生命を存続させる理由は、この青い瞳の
少女・・・アスカをまもらなけらばならない、その想いだけなのである。

「ありがとう。アスカ。僕に生きる勇気を与えてくれて」
「な、なんなのよ。突然」

「いや、ただ、いつか、お礼を言いたいと思ってたからね」
「アンタ、死のうと思ったことあんの?」

「そうだね。シンジ君に握りつぶされて、死んだはずなのに、それでも、再生
してしまった時。もう一度、死のうと思ったよ。なぜ、生き返ったのか、わか
らなかったからね」
「ふーん、でも、つまり、アンタ、死ななかったわけね」

「そうだね。なぜだろうね?」
「でも、良かったじゃない」

「なぜだい?」
「アタシにめぐりあえてさ」

少女は、顔を真っ赤に染めて、そう小さく一言いったあと、うつむくように、
下を向いて、黙りこんだ。少年は、少女の言葉に少し、驚いたあと、やはり、
優しい包み込むような微笑みを浮かべながら、少女を見つめ続ける。少女の口
が微かに動き、本当に、小さな小さな声が洩れる。

「アタシも、カヲルのこと、そんなに嫌いじゃないから」
「ありがとう・・・アスカ」

つづく


あとがき

はじめまして、筆者です。

どうだ!最後まで、好きと言わせなかったぞ!・・・って、威張ることか?

でも、僕のアスカは、こうなんだから、しょうがないんです。
したがって、LAS になんか、なりようがないんですよ。基本的に。

しかも、筆者は、アヤナミストですから、
基本的に、LRS が好きでして、その次にくるのは、やはり、LAK な訳です。

どうでしょうか?
やっぱり、いい取り合わせだと思うんですけどね。

ちなみに、私、「LRS×LAK製作委員会」雑用係っての、やってますから。

それで、今回のお話は、全てが終わった後のお話です。
筆者は EVA の映画をひとつも見てませんから、テレビ 24 話の後話ということです。
(ちなみに、テレビは、24 話で完結なんだからね!)

正確にいうと、筆者のページに「Fortsetzung ...」という話があって、
その話で、アスカとカヲルが出会うんです。
それで、その後、しばらくした後のワンシーンを書いたつもりです。

もちろん、この裏では、レイとシンジもなにかしてるはずですけど。
でも、ここは、「惣流補完委員会」だから、こっちのカップルを表にしてみたんです。

とにかく、幸せになって欲しいですねぇ。
アスカもカヲルも・・・・もちろん、レイもシンジも・・・
みんなみんな、幸せになって欲しいですねぇ。

それが、筆者のねがいですから。

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、筆者の他の作品も読んで下さるとして、

また、どこかで、お会いしましょう。


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