アタシはアスカよ!
第弐話
小さな包み


「あ、綾波・・・その、おはよう」」
「おはよう、碇君」

「あの・・・」
「なに?」

いつもとおんなじような朝の始業前の風景。アタシは、椅子に座って、ボーっ
としながら、なにを考えるでもなく、シンジ達の方を見ていた。シンジは、相
田に背中をおされて、教室に入って来たレイの方へ進むと、お互いに挨拶を交
わした後、シンジは、顔を真っ赤に染めて、だまりこむ。レイは、そんなシン
ジの様子を不思議そうに、見つめる。

「用事、なに?」
「う、うん・・・これ、こないだのお返し」

シンジは、相変わらず、顔を真っ赤にしながら、綺麗にリボンで結わえられた
紙袋をレイの前に差し出した。

「こないだの?」
「う、うん・・・その・・・今日は、ホワイトデーだから」

「ホワイトデー?」
「その・・こないだ、綾波にチョコ、貰えて、嬉しかったら・・・だから、お
返し。と、とにかく・・」

そういうとシンジは、慌てたように、レイの手をとって、紙袋を手渡す。レイ
は、驚いたように、そして、ほんの少し、頬をピンクに染めて、シンジを見る。

「あ、ありがと・・・」
「うん、僕こそ、受け取ってくれて、ありがとう、綾波」

「わたし・・・人から、もの貰うのはじめて・・・ありがとう、碇君」
「う、うん・・・」

レイは、あどけない、不器用な笑顔で、シンジに微笑みかける。シンジは、も
う耳まで、真っ赤に染めて、レイの前で硬直している。

レイって、なんで、あんなに、可愛いのかしら・・・純真で・・・素直で・・・
アタシとは、まるで、正反対ね・・・それに、シンジも、ホントに、レイが好
きなのね・・・いいわねぇ・・・愛してくれる人がいて・・・それに素直に反
応できて・・・・

「はぁ〜」

アタシは、なにげなく、ため息をつく。

「なに、ボっと、碇君達みて、ため息なんかついてるのよ!アスカ」
「別に、シンジなんか、見てたわけじゃないわよ!」

「羨ましいわよね、綾波さん。あんなに、碇君に愛されて」
「な、なんで、アタシがレイなんかを、羨ましがんなきゃなんないのよ!」

「そうよね。アスカには、ちゃんと、いい人がいるものね」

ヒカリは、にやりと笑いながら、アタシの肩を突っつきながら、窓際に立って
いる一人の男子の方に視線をやる。わかってるわよ、アタシだって、アイツが
さっきから、ずっと、アタシを見てるってことぐらい。だから、視線が合わな
いように、アタシは、シンジたちの方を見てたんじゃないの!・・・それに・・・

「な、なに、いってんのよ!冗談じゃないわよ。あんな奴!」
「あら?そうなの?」

「あ、あったりまえじゃない!なんで、あんな奴、アタシが・・」
「ふーん、私は、まだ、誰とは、いってないんだけどね。ふふふふ、アスカ、
誰のこと、言ってんの?」

ホントに、ヒカリの奴、最近、性格悪くなったわ。ヒカリは、にやにやと笑い
ながら、アタシの顔をのぞき込んで、そんなことを言う。

し、死んだって、赤くなんかならないんだからね!アタシは!

「う、うっさいわね!」
「でもさ、渚君って、カッコいいわよね。肌なんか、透き通るように綺麗だし、
男の子にしとくのもったいないと思わない?・・・あんな人にいい寄られたら、
さすがのアスカも・・・そうだわよねぇ・・」

「ヒ、ヒカリ!だから、アタシは、なんとも思ってないって!」
「まっ、アスカの気持ちも、分からなくはないけどね」

「なにがよ!」
「好きだけど、でも、認めたくないって、ホント、アスカって、可愛いと思う
わよ」

「な、なによ・・・なんで、アタシが、あんな奴、好きでなきゃいけないのよ!」
「あら?そうなの?私、もらってもいいの?」

ホントに、性格悪くなったわ・・・男ができると、こうも、変わるもんなのか
しら?アタシも、変わるのかしら?好きだと認めたら・・・な、なに、考えて
んのよ!アタシは・・・!

「あったりまえじゃない!アタシは、関係ないんだから。ヒカリも、物好きね、
あんな変態、好みだなんて」
「そう?だって、やっぱり、かっこいいわよ」

「ほぅか、いいんちょは、あないな男が好みなんやな。それやったら、わい、
身ぃ引いたってもええで」
「ト、トウジ!あんた、いつからいたの?」

「そうやな、いいんちょが、誰ぞのこと、カッコええちゅうとったあたりから
やな」
「じょ、冗談よ。あたりまえじゃない・・・あの・・・怒ってるの?トウジ」

「あ、阿呆、なんで、そないなことで、わいが怒らなあかんのや。そない器量
の狭い男やないで、わいは・・・そやけど、ちょっと・・・・な」
「うん、ありがと、トウジ・・・」

「ええんや。それより、わいこそ・・・ヒカリ・・・・」
「ううん、ごめん。トウジ・・・・」


    ◇  ◇  ◇


カヲルは、悲しそうな瞳で、アタシを見てる。分かってるわよ。変態だなんて、
ホントに思ってたりは、しないわよ。でも、しょうがないじゃないの。アンタ
は、アタシを分かるって、言ったんじゃない。そういうアタシが好きなんでし
ょ?なら、そんな悲しそうな瞳で、見ないでよ。

・・・・ごめん。

アタシが顔をあげて、カヲルの方を見ると、カヲルがアタシの方に近づいて来
た。な、なに、するの?・・・やめてよね!・・・・

「僕こそ、ごめんよ、アスカ」

アタシの席まで来ると、アタシにだけきこえるような小声で、歩きながら、カ
ヲルは、そういうと、そのまま、アタシの横を通過して、自分の席についた。

な、なによ!今の!・・・なんでも、分かってるような顔しちゃって!アタシ
のこころまで、読めるっていうの?・・・ホントに、なんって嫌な奴なのかし
ら!

だいたい、分かるなら分かるで、はじめっから、悲しい顔なんかしなきゃいい
のよ。アタシの気持ちが分かるなら・・・・分かるのかしら?・・・・アタシ
にも分らないのに・・・・

だ、だいたい、自分の好きな人を、これだけ悩ませるってのが、そもそも・・・
ホッント、なんて・・・カヲルって・・・・カヲルって・・・・

やっぱり、嫌な奴なのよ!


    ◇  ◇  ◇


「ちょっと、アンタ、なんで、ついてくんのよ!」
「ふふっ、方向が一緒なんだから、しょうがないんだろ?」

「そ、そうだったわね」
「そんな風に意識することじゃないんだろ?・・ふふっ」

「べ、べつに、アタシは、意識なんかしてないわよ!」

カヲルは、微笑みを浮かべながら見つめて、アタシの横を歩く。ホントに、も
う!前向いて、歩きなさいよね。

「ありがとう、アスカ。僕のことで、悩んでくれて」
「なんなのよ。突然。なんのこと?」

「ううん。ごめん。ただ、お礼をいいたかっただけだよ」
「ホント、アンタって、相変わらず、わけ分んないわね」

「そうだね。なんたって、変態なんだからね」

カヲルは、冗談ともつかないような口調で、そんなことをいう。アタシは、カ
ヲルの顔を・・・なるべく、自然に・・・盗み見る。

「あ、あれは、言葉の綾じゃない!・・・・・アンタ、あんなの気にしてんの?」
「別に、今は、そうでもないけど、あの時は、一瞬、やっぱり、ショックだっ
たよ」

「そう・・・・ごめん」
「いいよ。それに、僕は、やっぱり、変だからね」

「・・・・そんなことないわよ」
「ありがとう。そうだね。そういうことをいうと、また、アスカを悩ませるこ
とになるからね。もう、いわないよ」

「アンタね。そうやって、心を、自分の気持ちをコントロールしてばかりいて、
疲れない?」
「そうでもないさ。アスカは、疲れるのかい?」

「アンタばかぁ?アタシ程、自分の気持ちに素直なオンナは、いないわよ。な
んで、アタシが疲れるのよ」
「そうだね。いいね。アスカは。アスカだからね」

「なに、わけ分んないことばっかりいってんのよ。さっきから」
「そうだね。ごめんよ。アスカ」

「もう、いいわよ。じゃ、アタシ、こっちだから」
「ア、アスカ・・・」

分れ道で、アタシが家の方に曲がろうとすると、カヲルがアタシをめずらしく、
吃りながら、呼びとめた。

「なによ!家まで、送ってこうっての?ズーズーしいわね!」
「そうじゃなくて・・・」

「なによ?はっきりしなさいよ。アンタらしくもない。まるで、シンジよ。そ
れじゃあ」
「そ、そうだね。じゃあ、これ、受け取ってくれるかな?」

カヲルは、いつもの口調で・・・でも、なにか、顔を赤くしながら、綺麗にラ
ッピングされた箱をアタシに差し出す。

「なに?まさか、ホワイトデーのプレゼント?アタシ、アンタに、バレンタイ
ン、あげた覚えないわよ」
「ダメなのかい?」

「まあ、くれるってんなら、もらってあげるわよ」
「本当かい?ありがとう、アスカ」

「いっとくけど、変な勘違いしないでよ!」
「わかってるさ。ありがとう、アスカ」

「もう、いいわよ。だいたい、プレゼントしたのは、アンタじゃない。なんで、
アンタが、お礼ばっかりいうのよ。アタシにも、いわせなさいよね!」
「え?・・・」

「冗談に決まってるでしょ!なに、期待してんのよ!」
「ごめんよ、アスカ・・・ふふっ」

「いいわよ。ア、アタシ、行くからね」
「そうだね。ごめんよ。引き留めてしまって。それから、受け取ってくれて、
本当に、ありがとう」

「じゃあね!」

アタシは、分れ道を家の方へ、歩きだす。でも、やっぱり、思い直して、振り
返って、カヲルの名を呼んだ。

「カヲルー!」
「なんだい?アスカ」

「これ、あげるわ」

この一カ月の間、ずっと、アタシの鞄に入っていた、小さな包みが放物線を描
いて、カヲルの方へ飛んでく・・・・

つづく


あとがき

どもども、筆者です。

うーむ、言わせたい台詞を、とうとう言わせられなかった・・・

と、いうわけで、とにかく、「アタシはアスカよ!」の第弐話です。
って、第壱話の時は、単発のつもりで、タイトルなんてなかったんだけど、
なんか、つづきを書け!と、いわれて、
それなら、タイトル考えようかな?ということで、とりあえず、
こんなの、つけてみました。

しかし・・・「帰り道」は、三人称で、書いたのに・・・・
・・・・なぜ、第弐話は、アスカ一人称になったんだろう?

しかも、おかげで、なんだか、悲しくなっちゃったし・・・

まあ、しかたがありません。

言わせたかった台詞が残っちゃったし、
とりあえず、もう少しぐらいは、つづくかもしれませんが、
でも、次はいつごろかなぁ?

で、話の方は、
ホワイトデーのお話です。

いやぁ、やっぱり、本編準拠綾波って、可愛いねぇ。
うーん、一瞬、最後まで、あれで、いっちゃおうかと思ったし。

それにしても、あのヒカリ×トウジも、困ったなぁ。
ああなってしまったら、◇入れて、誤魔化すしかないじゃん!

しかし、いいねぇ、アスカも、可愛いよねぇ、バレンタインのチョコを
一カ月も、鞄に忍ばせて、しかも、渡せないでいたなんて!

そんなバカなことあるわけないじゃん!
まったく、何考えてんでしょうね、この筆者って・・・(おいおい)

ま、そんなようなところで・・・

あ、それから、感想は、筆者の方に直に下さいね!
まってるんですから!  (下記のこちらってとこをクリックするのだ!)

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、

また、次回、お会いしましょう。


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