アタシはアスカよ!
第四話
「進路」


「進路希望のアンケートを配る。まあ、まだ先の話だし、これで、決定という
わけではないから、みんな気楽に答えるように」

朝のホームルーム、先生が進路希望のプリントを配る。アタシは、配られるプ
リントを受け取り、一枚とって後ろへ渡す。

「進路かぁ・・・」

鉛筆を口にくわえ、右手で、プリントをもって、ぼうっと眺める。前の方の席
では、隣同士に座ったレイとシンジがお互いに覗きあいながら、楽しそうに、
プリントに記入している。窓際を見ると、カヲルが、じっとアタシの方を見て
いる。アタシと目があっても、そらす様子もなく、アタシの方を心配そうな表
情で見ている。アタシは、視線を再びプリントに向ける。

「進路ねぇ・・・」

いまさら、進路っていったって・・・・・・

いままでのアタシの目標は、エヴァのパイロットになって、世界、人類のため
に、立派に戦うこと・・・ううん、それで、人に褒めてもらうことだったのか
もしれない。

「でも・・・」

「アタシは、いままで、なんのために生きてきたのかしら?」

ネルフは、もう、その役目を終えて、解体された。エヴァも・・・

「アタシは・・・・・・」

アタシは、鉛筆をくわえたまま、ぼうっと、真っ白なアンケート用紙を見つめ
つづける。

「それでは、用紙を回収する。まだ、どうするか決まってなくて、書けなかっ
た者も、あとで、相談にのるので、そのまま提出するように」

先生の言葉で、一番後ろの席のものがプリントを回収しはじめる。アタシは、
なにげなく、真っ白な用紙に、ひらがなで5文字・・・・・・

「あっ」
「どうしたんだよ。惣流」

「な、なんでもないわよ。さっさと、持ってきなさいよ」
「ひぃ、おっかねぇな、相変わらず、惣流は」

「いっとくけど、見たら、半殺しだからね」
「はいはい、惣流に逆らおうって人間は、このクラスにはいないよ」

こうして、アンケート用紙が、回収されていく。窓際の席を見ると、カヲルが、
優しい微笑みを浮かべながら、アタシを見てる。


  ◇  ◇  ◇


「そうか、よく分かった。そうだな。惣流がそう考えるなら、それも、よかろ
う。ただ、これは、いささか、驚いたぞ」

放課後、アタシは、先生に呼ばれて、進路指導室で、アンケートの真意を問わ
れた。アタシが、取り繕ったように説明すると、先生は、納得した様子で、最
後は、アンケート用紙を指差して笑う。アタシも、作り笑いを浮かべて、それ
に応えてから、静かに進路指導室を出る。

「アスカ」

玄関に向かう廊下で、聞きなれた穏やかな声がアタシを呼び止める。アタシは、
すっと息をひとつ、吸い込んで、振り向く。

「なによ、アンタ。まだ、帰ってなかったの?」
「アスカが心配だったからね。先生になにを言われたんだい?」

「別に、アンタなんかに、心配してもらうことは、なにもないわよ」
「そうなのかい?」

カヲルは、真剣な表情で、アタシを見つめて、念を押す。

「当ったり前じゃない。ただ、先生が、今朝のアンケートの答えが、分かり難
いっていうから、説明してただけよ」
「進路で、悩んでるわけじゃないんだね?よかった、安心したよ」

「なによ。アンタ、そんなこと心配してたわけ?なんで、アタシが進路なんか
で、悩まなくちゃならないのよ」
「そうだね。アスカだものね」

「そうよっ!判ったんなら、そんな目でいつまでも、見てないで、さっさと、
帰りなさいよ」
「ふふっ、僕は、アスカと帰りたいな。だから、待ってたんだ。心配してるっ
ていうのは、単なる口実だったのさ。一緒に帰っちゃダメかい?」

カヲルは、にこりと、微笑みながら、アタシを見つめる。

「アンタ、ほっんと、どうしょうもない男ね。どうせ、方向は一緒なんだから、
ついてきたいなら、ついてくればいいでしょ?」
「ありがとう、アスカ」

「アンタばかぁ?なに、お礼なんかいってんのよ。ほら、さっさと歩き出しな
さいよね。アタシは、早く、帰りたいんだから」

アタシは、カヲルの腕をとって、引っ張るように歩き出す。

「ほっんとに、グズなんだから、アンタは!」
「ふふふっ、そうだね。僕は、グズだものね。ありがとう、アスカ」

「アンタねぇ、何回、言わせるのよ!」
「なにをだい?」

カヲルは、にやりと微笑んだ後、アタシの目をじっと見つめて、尋ねる。アタ
シは、慌てて、視線をそらし、更に、歩みをはやめる。

「うっさいわね。いいから、帰るわよ」

アタシは、カヲルの腕を掴んで、カヲルを引っ張るように家への道を歩く。カ
ヲルは、やはり、優しそうに笑いながら、アタシを見ている。

「ありがとう、アスカ」
「・・・・・・ばか」


  ◇  ◇  ◇


アタシは、カヲルの腕を掴みながら、ややゆっくりと、夕暮れの町並みを歩く。
カヲルは、アタシの半歩後ろをアタシに引っ張られるような格好でついてくる。
たぶん、いつもの優しい微笑みを浮かべて、アタシの後ろ姿に見とれながら、
ついてきてる。追い越せないスピードでもないのに・・・・・・

「でさ、アンタは、なんて書いたの?」

アタシは、半歩分、歩みを止めたあと、でも、カヲルの顔なんか見ずに、前を
向いたまま、カヲルに、問い掛ける。

「え?」
「え?じゃないわよ。進路調査、なんて書いたの?」

カヲルがなかなか要領を得ないので、しかたなく、アタシは、カヲルの方に向
き直って、再び問い掛ける。カヲルは、なにか、嬉しそうに、にこりと、アタ
シに向かって、微笑みかけたあと、それに応える。

「あぁ、そうだね。僕は、第三新東京高校を受験するって書いたよ」
「ふーん、そうなんだ」

「うん、みんな、そうするみたいだからね。アスカは」
「アタシは、高校、行かないわよ」

アタシは、カヲルの台詞を先取りするように、あっさりと、答えた。カヲルは、
驚いたように、アタシを見つめる。

「え?アスカ・・・」
「アンタばかぁ?アタシは、もう、アメリカで、大学卒業してんのよ。なんで、
今更、日本の高校なんか、行かなきゃなんないのよ!」

アタシは、当たり前のようにそう答える。カヲルは、じっと、アタシの目を見
て、そして、ふっと、息を吐いてから、にこりと笑って応える。

「ふふっ、そうだったね。でも、寂しくなるな。高校も、できれば、一緒に通
いたかったからね」
「ばかねぇ、そもそも、同じとこいくとは、限らないじゃない」

「アスカなら、受かるだろ?どこだって」
「アンタばかぁ?あったりまえじゃない。問題は、アンタでしょ?」

「ふふっ、そうだけどね。僕は、アスカと同じところに行けるように頑張ろう
と思ってたからね」
「残念だったわね。アタシが、高校行かなくて。で、どうするの?」

「え?」
「アタシが、高校行かないって、判って、アンタも、行かないなんて、言い出
さないわよね?」

「そうだね・・・うん、僕は、高校いって、出来れば、大学も出て、どこか・
・・まだ、なにをやったら、いいのか判らないけど・・・普通に就職したいと
思ってるよ」
「そう、それがいいかもね。みんなと、同じように、やってれば、アンタも普
通になれるかもね」

「うん、そう思うんだ」
「ば、ばかねぇ、普通の人間なんて、言葉だけの話よ。そんなの、本当はいる
わけないんだから。みんな、ひとそれぞれなんだからね!」

「判ってるよ。ありがとう、アスカ」
「だから!・・・まっ、いいわよ。それじゃあ、どういたしましてっ!」

アタシは、半歩分、歩みを速めて、カヲルを引っ張るように、半歩先を歩く。
カヲルは、ふっと、小さく、微笑んで、うなずいた後、アタシを見つめながら、
アタシの半歩後をついてくる。

「で、聞かないの?」
「え?」

「だから、アタシが、高校いかないで、なにするかよっ」
「うん・・・探すんだろ?」

「な、なに、いってんのよ。アタシは、アンタの・・・」
「したいことを・・・なにをすべきかを探すんじゃないのかい?・・・・・・
僕の?・・・・なんだい?」

「な、なんでもないわよ!そうよ!探すのよ!アタシは、いろんなことをやっ
てみるのよ」
「うん、そうだね。それがいいと思うよ」

「そうよ!アタシには、沢山の知識があるわ。でも、まだ、若いから、経験不
足なのは、否定できないわ。だから、全部、やってみるのよ、アタシの知って
ることを。そしたら、アタシは・・・・・・・」
「アスカは?」

「アンタが、大学卒業する頃には、完璧なスーバーレイディになってるわよ。
どう?」
「どうって・・・そうだね。アスカだからね。きっと、そうだろうね」

アタシが、カヲルの方に振り向いて、まくしたてるように、言い放つと、カヲ
ルは、すこし、驚いた表情を見せた後、優しい微笑みを浮かべながら、応える。

「僕もそのころには、せめて、普通の人になっていたいな。アスカのようには、
なれそうもないからね」
「あったりまえじゃない。そんなの」

「それで、僕の・・・なにをいおうとしたんだい?」
「な、なんでもないっていったじゃない。しつこいわね」

アタシは、さっき、思わずいいかけてしまった失言を思い返しながら、慌てて、
また、カヲルに背を向けて、歩き出す。カヲルは、にやりと笑いながら、アタ
シの後を歩きながら、しつこく問い掛ける。

「気になるな。なんていおうとしたのか。教えてくれないのかい?アスカ」
「・・・・・・」

アンケート用紙に思わず、無意識のうちに書いてしまった言葉を思い返して、
アタシは
カヲルの方を振り返るけど、言葉はでてこない。

「それじゃあ、いいよ。僕が、大学を卒業して、無事に就職できたときには、
教えてくれるだろ?」
「そうね。アンタが普通の人になれたらね」

「うん、頑張るよ」
「でも、いっとくけど、アタシは、平凡な男は嫌いよ」

「でも、僕は、平凡な、可愛い夢見る女の子って、好きだな」
「へ、へぇ、そうなんだぁ」

なんとなく、カヲルがなにをいいたいか判って、アタシは、少し、焦りながら、
応える。カヲルは、優しく微笑みながら、アタシを見つめる。アタシは、真っ
赤になりながら、うつむく。なぜだか、判らないけど、涙まで、でてきて・・・

「・・・・・・ありがと、カヲル」

アタシが、そうつぶやくと、カヲルは、にやりと笑いながら答える。

「ふふっ、なにが、ありがとうなんだい?アスカ」

つづく


あとがき

どもども、筆者です。
いやぁ、カヲル君、なんて、意地悪っ!(笑)・・・し、失礼(;^-^A

と、いうわけで、ご無沙汰してました。
久々の「アタシはアスカよ!」です。
某掲示板に、なんだか、催促らしきものが書いてあったので、
“非常に“多忙なスケジュールの中、なんとか、一つ書いてみました。

そうなのです。
アスカたちは、まだ、中学生なんですよね。
(こいつら、ホントに、中学生かよ?と、若干思わなくもないけど)
で、アスカは、大学でてるはずなんですよ。

んで、そうすっと、高校なんか行かないよね、やっぱし。
と、いうようなことを考えてて、んじゃ、アスカは、なにするんだろ?って、
思ったら、こんなお話ができちゃいました。

さて、アスカは、なんになると、アンケートに答えたのでしょう?
答えが分かった人は、こちらまで、メールで応募下さい。
正解者には・・・・・・さて、どうしましょう?(^^;

ところで、これ書いててですね。
レイ×シンジ組は、どんな会話してるかな?って、ふと、思うんですよね。

で、なんだか、そっちの方が、
というか、そっちも、面白いな、と思ったりして、
思わず、そういう場面も挿入しかけたんですけど、駄目だわ。
話が、変わってしまう、それやると(笑)
(ああ、そうか、分離して、某所に投稿するという手もあるな(にやり) )

と、いうわけで、相変わらず、掛け合い漫才のみという構成ですが、
ま、まあ、このあと、アスカ様のいろんなチャレンジってのを、いろいろと
書いてみたいななんて、思ってたりするし、いいとしましょう。
・・・・しかし、筆者は、「レイが好き!」のはずなのだが(^-^;

んじゃまあ、そゆことで・・・

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、

また、どこかで、お会いしましょう。


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