アタシはアスカよ!
第五話
「聖夜」


街の至る所で、流れるクリスマスソング。

カヲルは、その軽調のメロディーの流れる商店街を、ひとり、関心なさげに、淡
々と歩く。

カヲルにとって、ほとんど初めてのクリスマスといっていい。

初めてのクリスマスだからといって、彼がクリスマスを知らないわけではない。
本を読めば、大抵のことは分かる。


キリストの誕生日。

子供たちがサンタクロースのプレゼントを楽しみにしていること。

でも、それは、本当は、両親からのプレゼントであること。

ほとんどの子供たちは、それを知っていること。

でも、なかには、サンタクロースを信じている子供もいること。


カヲルは、サンタクロース風のビラ撒きが差し出すビラを、ちらりと一瞥すると、
すっと、それをよけるように、商店街を進む。


クリスマス。

そして、恋人たちのイブ。

思い出を作る夜。

子供たちとは、違う意味を持つプレゼント。


恋人たちのクリスマス・イブ。



カヲルは途中、スーパーに入る。切れ掛かっている醤油をカゴにいれて、少し、
考えてから、ほうれん草を一束と、豚肉を1パック、カゴにいれる。クリスマス
グッズのコーナーを通って、レジに並ぶ。

スーパーでも、華やかな、その一角。

カヲルは、レジの脇に陳列してあるクリスマスカードを一枚、手にとって、眺め
る。

「ふふっ」

カヲルは、小さく、そう微笑んで、カードを元の棚に戻す。

機械的な動きがカヲルのカゴの品物をカウントしていく。その度に、ピッと、音
がなる。カヲルは、なるべく、その電子音を聞かない様にしながら、ディスプレ
ーの数字を眺める。

機械的にお金を払い、そして、店を出る。

華やかな商店街を抜けると、カヲルの住むマンション。

カヲルは、スーパーの袋と学生鞄を右手にもって、その建物に入っていく。

  ガチャリ

いつものように、誰もいない部屋に、自分で鍵を開けて、入る。昼間、主のいな
かった部屋は、すっきりとかたずいてはいるものの、どこか、空気のよどんだよ
うな重い雰囲気が漂っている。

カヲルにとっては、いつもの部屋。

『一日、一回は、部屋の空気を入れ替えるものよ!』

カヲルは、なにかを思い出したように、クスッとわらって、窓を向かう。窓を開
けると、いままで、歩いてきた冬の冷たい空気が部屋へ飛び込む。

「少し、寒いかな?」

カヲルは、そう呟きながら、街の明かりを眺める。

クリスマスで賑わう街を。


    ◇  ◇  ◇


食事を終えて、カヲルはベッドに仰向けに横たわる。

『アンタばかぁ?なんでアタシが、アンタなんかと、イブを過ごさなきゃなんな
いのよ?』

彼女の言葉。

カヲルには、それが、本心でないのは、分かっているはずなのだが・・・

カヲルは、今夜もひとり、ベッドに横たわる。

「ふふっ、ダメなのかい?」

なぜ、そう応えられなかったのか?

『べ、べつに、ダメだなんて、いってないでしょ?アンタがどーしても、ってい
うなら、晩御飯ぐらい付き合ってあげるわよ』

それに対する彼女の答えだって・・・カヲルには・・・

そして、今、彼女は、なにを・・・


  プ・プ・プ・プ・プ・プ・プ

  カチッ

  トゥルルルルル

  トゥルルルルル

  トゥルルル・・ピッ


呼び出し音に耐え切れずに、切断ボタンを押してしまう。


相手の番号表示を、じっと眺める。


じっと見つめる






















  ジャジャジャ、ジャーーン

  ジャジャジャ、ジャーーン


カヲルの手の中の携帯電話が、運命を奏でる。

カヲルの表情が突然、明るく変化する。

  ピッ

「もしもし、渚です」
「アンタばかぁ?」

「アスカだね?」
「アタシ以外に、誰がアンタなんかに、電話かける人がいんのよ?」

「ありがとう、嬉しいよ」
「ばかぁ?アンタがかけたんじゃない!だいたいねぇ、もうちょっと、待ちなさ
いよね。3コールでなんて、出られるわけないじゃない!」

「ふふっ、ごめんよ。アスカ」
「いいわよ。もう。で、なんの用?」

「用がなくちゃ、いけないのかい?」
「わかったわよ。しょうがないわね。まあ、昼間はきつく言い過ぎたわよ」

「そうじゃないよ。僕がそれで、黙ってしまったからね。ごめんよ。アスカ」
「どういう意味よ?」

「いや、なんでもないさ」
「なんでもないなら、意味ありげに、謝ったりしないでよね!」

「ふふっ、アスカともっと話がしたかったなと思っただけだよ」
「アタシは、別に、アンタなんかと・・・」

「だから、僕がだよ」
「そう!よかったわね!」

「うん、ありがとう」


「・・・・」


「・・・・」


「アスカ?どうしたの?」
「な、なんでも、ないわよ!」

「アスカ・・・」

「なによ?」

「・・・今から、そっちに行ってもいいかな?」

「・・・・」

「ダメなのかい?」

「べつに、ダメだなんて、いってないなわよ。アンタが来るっていうなら、さっ
さと、来ればいいでしょ?」

「そうだよ。どうしても行きたいから、行くよ。直ぐに」


「・・・・」


「昼間は、ごめんよ」



「うん」



つづく


あとがき

筆者です。

ご愛読ありがとうございます。

とりあえず、クリスマス企画です。

最近、長らく、あとがき書いてないんで(というとこは、話自体を?)
どう書いていいか忘れました。

今回の話は、カヲル君主体で書いてみました。
おかげ様で、アスカが何をどう思ってるのか、さっぱり書けませんでした。
まあ、適当に読み取ってください。

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、

また、どこかで、お会いしましょう。


御意見・御感想はこちら

第6話へ 戻る