アタシはアスカよ!
第六.1話
信じるって?


「もう放っといてよ」

今にも泣き出しそうな表情でアスカは、ひとことそう言うと、家路を歩き出した。
カヲルはアスカに続いて、その後ろ姿をじっと見つめながら、歩く。

夕暮れに染まる街並みを進む。

街中を真っ赤に染める夕陽がアスカの長い髪を艶のある銅色に輝かせる。

いつものカヲルはそんな美しい少女の後ろ姿に見とれながら、少女から一歩下がっ
たところを無言で歩く。

いつもなら、さんざわめき散らして、カヲルの尾行を咎めたてるアスカが、黙って、
彼女らしくもなく俯きながら黙々と歩く。

今日のふたりは、いつもと少し違う。

ふと、アスカの小さな声がカヲルの耳に届く。

「どうせ、アンタも疑ってるんでしょ?」

カヲルは、頭を上げ、アスカの後ろ姿に、静かに問い掛ける。

「なぜ、そんなこと、思うんだい?」

アスカは、カヲルが自分を信じ込んでいることを知っている。だから、さっきの台詞
は、単なるアスカの希望。

そして、今度はアスカが一番恐れている言葉を口にしてみる。

「信じてるってわけ?アタシのこと」

カヲルは、その問いにしばし考えこみながら、夕陽に輝くアスカの髪を見つめる。

ようやく、カヲルが答える。

「たぶん、信じるっていうのとは、少し違うと思うよ」

アスカは、顔を上げて、チラリと、肩越しにカヲルの方に視線を向ける。

ようやく自分に向けられたアスカの視線に、カヲルは、表情もかえずに付け加える。

「僕には、信じるっていうのがどういうことなのか分からないからね」


「・・・そう」

アスカは、焦点の合わない視線を足元に戻して、呟くように答える。

「ただ・・・」
「ただ?」

「ただ、僕は、アスカが好きだよ」

冷静に静かな声でそう囁くカヲルの声に、アスカの瞳が潤む。アスカ自身、本当に期
待していた答え通りではなかったのかもしれない。しかし、信じるとは言わずに、た
だ、好きだというカヲルの言葉に、アスカは歩みをとめて、静かに振り返る。

「どこが?」
「え?」

アスカはうっすらと瞳を潤ませながら、叫ぶようにカヲルを問い詰める。

「どこがいいのよ?アタシなんか!」

「そんなことは、わからないよ。ただ、好きだ・・・そう思うだけだから」

カヲルは、にこりと微笑みながら、それに答える。

受験に苛立つ同級生の、受験戦争とは無縁のアスカへの、陰湿な嫌がらせ。レイを庇
うアスカへの、そして、カヲルと付き合うアスカへの妬みの篭った中傷、悪戯。それ
は、クラス中での周知の事実。だから、アスカには、動機ありとされた。そして、ア
スカにとって不利となるように、巧妙にしくまれた罠。

孤立無援。

しかし、そんなことは、アスカには関係なかった。いや、アスカは努めて、無関心を
装う。アスカがやったという証拠はどこにもないし、事実、アスカは無実であったの
だから。

ただ・・・アスカのココロは・・・

「アタシは、聖女じゃないわ!」
「それは、僕にはわからないよ」

「嘘もつくし、人を傷付けることだって、あるわ!いつだって、そうなのよ!」
「それも、僕にはわからないよ」

「最低のオンナなのよ!」
「それも、僕にはわからないけど、でも、アスカであることには変わりはないよ」

「なんで?・・・・」

それまで、自虐的な叫びをつづけていたアスカが言葉につまったように、そう問うと
黙り込む。

「・・・なんで、そんな風にいうのよ?」

絞り出すように、その先を口にしたあと、堪えていた何かが突然に切れたように、ア
スカが涙を流す。


    ◇  ◇  ◇


アスカの部屋の中。アスカは子供のように、泣きじゃくりながら、カヲルに連れられ
て、ソファーに腰を下ろす。カヲルには、アスカをそっと抱えながら、隣に座って、
アスカの長い髪を撫でる。

「アスカがね。どんなに酷いオンナだって、どんなに醜い心を持っていたって、僕は
アスカの味方でいると思うよ」

カヲルがそっと言い聞かせるように囁く。

「きっとね。こういうのを、惚れた弱みっていうんだろうね」
「バカ」

アスカは、泣きじゃくりながら、それでも、小さくカヲルに答える。

「ふふっ、人に嫌われるの、嫌なんだよね、アスカは。でも、媚びるのも嫌」

カヲルの腕の中で、アスカは徐々に落ち着きを取り戻して、そして、黙って、カヲル
の言葉に耳を傾ける。

「うん。欠点だらけだと思うよ。でも、僕が好きなのは、そういうところじゃないん
だと思うんだ。僕は、アスカのこと信じてないっていった。でも、本当は、信じてる
んだ。どこが好きなのかは良く分からないけど、僕が好きな部分だけは、きっと、真
実なんだってね」

「そこが・・・」
「わからないけどね。どこだか」

「・・・そこがもし、本当じゃなかったら?」
「そんなことはないさ」

「そんなのわからないじゃない」

「うん。わからないけどね。だから、僕の思い込みだよ。きっとね」


「迷惑な話ね」


「うん。そうだろうね」

ニコリとカヲルが微笑みかける。

つづく

あとがき ごめんなさい、筆者です。 えとですね。こないだの最新版です。 まあ、世の中には、いろんなバージョンが存在しまして、 某最大手コンピュータソフト会社を見習って、見切り公開して、 その後、バグフィックスとは言わずに、"サービス"として、 修正版を配布するわけです。 で、酷いね。こないだのやつは(^^; まあ、今回のでどのくらい、それが直ったかは、ようわからんですけど、 やっぱ、落ち着いて、読み直さないと、だめなんだなと思うよ。 突然、話が始まる時は、もうちょっと、情景描写をいれないと、 なにがなんだか、さっぱりわかんないよな。と思った。 もちろん、筆者は、その時、アスカが、カヲルがどんな表情で、どんな考えで、 その台詞をいったのかがすべて分かってるから、それなりに読めるけど、 きっと、なんのこっちゃわからんかっただろうなぁ・・・こないだのは(汗) 更新状況をごらんになってもらえば、おわかりでしょうけど、 さすがに、忙しいよ。最近。 GWに、なんとか数話書いたけど、読み返しもせずって感じで(^^; ちなみに、レイが好き!正編の方も、30行ぐらいは、書いたよ。 ・・・でも、そこで止まってる(爆) (えとね、「宿題は自分でしましょう!」っていう話(笑) ) それでは もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、 そして、もしかして、つづきを読んで下さるとして、 また、次回、お会いしましょう。

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